「そう? ずっとこれだよ」
そう言われた時、私は悟った。
あ、このうさぎ、一時的なブームじゃないんだ。
ずっといるんだ。無理かもしれない。
これは、一人の内科医と、無数のうさぎに負けた女の話である。
始まりは「怪しい宗教お断り」だった

ペアーズを始めて間もない頃。
少し年上の内科医からいいねが来た。
医師、真面目そう、文章も丁寧、写真も普通。
かなり婚活向きに見える。
ただ、プロフィールの最後に、「怪しい宗教はお断りです」と書いてあった。
怪しい宗教。ずいぶん限定的な注意書きである。
何があった。少し気になった。
でも私は当時、男性医師というだけでかなり前向きだった。
私は無宗教である。条件クリア。
やり取りを始めた。
返信が速い。あまりにも速い
メッセージを始めてすぐ、別の問題が発生した。
返信が速い。本当に速い。
私が送る。返ってくる。また送る。返ってくる。スマホを閉じる暇がない。
朝でも昼でも夜でもだいたいいる。
医者ってこんなにスマホ見れるんだっけ。私は同業者なのに知らなかった。
文章も結構長い。絵文字も多い。悪いことではない。
むしろ世間一般では「マメな男性」に分類されるのだと思う。
婚活プロフィールにもよく書いてある。「連絡はマメな方です」あれは長所らしい。
私はその時初めて、マメにも適量があることを知った。
納豆も混ぜれば混ぜるほどいいわけではない。
多分そういう話である。
会ったら、普通だった
それでも会ってみた。
実際に会うと、かなり普通だった。
会話も成立する。仕事も真面目そう。清潔感もある。別に変な人ではない。
ただ、ところどころ妙に記憶に残る。
例えば、「女の子って実家暮らしだと婚活市場ではモテないからね」と言われた。
謎の上から目線に腹が立った。
さらに、「姪っ子のために月1でプリキュアショップ行ってるんだよね」とも言っていた。
姪っ子のためとはいえ、頻度多すぎでは?と思ったが、聞かなかったことにした。
それでも私は、「条件いいし、もう一回くらい会ってみようかな」と思った。
当時の私は、この「条件いいし」をかなり使っている。
だいたいこのあと良くない。
そして、うさぎが来た

初デートが終わったあと、LINEに異変が起きた。
彼がうさぎのスタンプを使い始めた。
最初は一匹だった。かわいい。別にいい。
しかし、うさぎは増えた。
文章。うさぎ。文章。うさぎ。質問。うさぎ。おやすみ。うさぎ。
一文につき一匹くらいの頻度で来る。
そして何より返信が速い。
私が返す。数十秒後。返事。うさぎ。私がまた返す。返事。うさぎ。うさぎ。
LINEのトーク画面はうさぎで埋め尽くされ、私はゲシュタルト崩壊を起こした。
「スタンプ、多いんですね」
数日後、私はとうとう聞いた。
「スタンプ、多いんですね」
随分と遠回しである。まだ私にも社会性が残っていた。
すると彼は、「そう? ずっとこれだよ」と返してきた。
ずっとこれ。そうなんだ。
なんか、スンっと冷めた。
最後だけ、うさぎは来なかった
結局、私はお断りすることにした。
丁寧に、「今回はご縁が違ったかなと思います」みたいなことを送った。
普段なら数秒で返ってくる。でも、この時だけ返事は来なかった。
既読だけついた。うさぎも来なかった。
ずっとこれだよって言ってたのに、違ったらしい。
こうして私と内科医との話は終わった。
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